香水の世界で最も神秘的で魅惑的とされる「ムスク」。その原料となるジャコウジカから作られる香水について、多くの人が疑問を抱いています。実際にジャコウジカから香水は作られているのか、そもそもジャコウジカとはどのような動物なのか、現代の香水事情はどうなっているのか。
この記事では、ジャコウジカと香水の関係について徹底的に調査し、一般には知られていない驚きの事実や現代の香水業界の実情を詳しく解説します。天然ムスクと合成ムスクの違い、ワシントン条約による規制の影響、そして現在でも本物のムスクを体験できる貴重な場所まで、香水愛好家なら絶対に知っておきたい情報を網羅的にお伝えします。
この記事のポイント |
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✓ ジャコウジカの生態と香嚢の仕組みがわかる |
✓ 天然ムスクと合成ムスクの違いを理解できる |
✓ 現代の香水におけるムスクの実情を把握できる |
✓ 本物のムスクを体験できる場所を知ることができる |
ジャコウジカの香水にまつわる基本知識
- ジャコウジカとは香嚢を持つ特別な動物である
- 天然ムスクは雄のジャコウジカから採取される分泌物である
- ムスクの香りは官能的で温かみのある特徴を持つ
- 古代から薬用と香料として珍重されてきた歴史がある
- ジャコウジカは現在絶滅危惧種として保護されている
- ワシントン条約により天然ムスクの取引は禁止されている
ジャコウジカとは香嚢を持つ特別な動物である
ジャコウジカ(麝香鹿)は、ヒマラヤの南から中国奥地、北はシベリアのバイカル湖周辺まで分布する小型のシカ科動物です。一般的なシカとは異なり、原種に近い特徴を持つ非常に珍しい動物として知られています。
体長は約60~90センチメートル程度と小さく、弱々しく見えるバンビのような外見が特徴的です。しかし、この小さな体に秘められているのが、香水業界にとって極めて重要な器官である「香嚢(こうのう)」です。
🦌 ジャコウジカの特徴一覧
項目 | 詳細 |
---|---|
体長 | 60~90cm程度 |
生息地 | ヒマラヤ南部~シベリア |
外見 | 小柄で弱々しい印象 |
特徴 | 雄のみが香嚢を持つ |
行動 | 単独行動、縄張りを持つ |
ジャコウジカの雄は、へそと生殖器の間に**「香嚢」と呼ばれる特殊な腺**を持っています。この香嚢は直径約5センチメートルほどの袋状の器官で、ここから分泌される物質こそが、世界中で珍重される「ムスク(麝香)」の正体なのです。
興味深いことに、この香嚢の存在により「ムスクは睾丸から採取される」という誤解が長い間広まっていました。これは、「Musk」という言葉がサンスクリット語で「睾丸」を意味する「ムスカ」に由来するためと考えられています。しかし実際には、香嚢は睾丸とは全く異なる場所にある独立した器官です。
ジャコウジカは一頭ずつ別々の縄張りを作って生活しており、繁殖の時期だけつがいを形成します。この縄張り行動や繁殖行動において、香嚢から分泌されるムスクが重要な役割を果たしていると推測されています。
天然ムスクは雄のジャコウジカから採取される分泌物である
天然ムスクの採取は、かつては極めて残酷な方法で行われていました。雄のジャコウジカを殺して腹部の香嚢を切り取り、それを乾燥させて香料を得るという方法が一般的だったのです。
一つの香嚢からは約30グラム程度の赤いゼリー状の分泌物が得られます。この分泌物は採取直後にはアンモニア様の強い不快臭を放ちますが、乾燥過程を経ることで徐々に臭いが薄れ、最終的には暗褐色の顆粒状となります。
🔬 天然ムスクの採取から加工まで
段階 | 状態 | 特徴 |
---|---|---|
採取直後 | 赤いゼリー状 | アンモニア様の強烈な臭い |
乾燥過程 | 徐々に固化 | 臭いが和らぐ |
完成品 | 暗褐色の顆粒 | 甘く粉っぽい香り |
この顆粒状のムスクは、そのまま薬として使用されるか、エタノールに溶解させてチンキとして香水の原料に使用されていました。エタノール抽出により不溶物を除去することで、香水に適した形状に加工されるのです。
ムスクの主要な芳香成分は「ムスコン」と呼ばれる15員環の大環状ケトン構造を持つ化合物で、全体の0.3~2.5%程度を占めています。この他にも、男性ホルモン関連物質であるアンドロステロンやエピアンドロステロンなどのステロイド化合物が含まれており、これらの成分の複合的な作用により、ムスク特有の香りが生み出されると考えられています。
品質の良いムスクの基準として、ムスコンが2%以上、C19-ステロイドが0.5%以上含まれているものが良品とされていました。特にチベット、ネパール、モンゴル産のものが最高級品とされ、これらはトンキン(現在のベトナム北部)から輸出されていたため、「トンキン・ムスク」として香水業界では最上級品の代名詞となっています。
ムスクの香りは官能的で温かみのある特徴を持つ
ムスクの香りを一言で表現するのは非常に困難ですが、一般的には「甘く粉っぽい香り」「奥行きのある官能的な香り」「温かみのあるセクシーな香り」などと形容されます。この独特な香りの特徴は、フェロモンとしての役割を果たしていることと密接に関係していると考えられています。
興味深い研究結果として、フランスの科学者ジャック・ル・マニヤンが行った実験があります。この実験では、成熟した女性は男性や少女よりもムスクの香りを強く感じることが証明されました。さらに、女性ホルモンの「エストロゲン」の増幅により、その感じ方がより強まることも明らかになっています。
😍 ムスクの香りの特徴と効果
特徴 | 詳細説明 |
---|---|
香調 | 甘く粉っぽい、温かみのある香り |
官能性 | セクシーで大人っぽい印象を与える |
持続性 | 他の香りを長持ちさせる保香効果 |
奥行き | 香りに深みと広がりを与える |
性差 | 女性の方が強く感じる傾向 |
ムスクには単独での香りの美しさだけでなく、**他の香りを引き立て、持続させる「保香効果」**という重要な機能があります。これは香水調香において非常に価値の高い特性で、フローラルやシトラスなどの軽やかな香りに深みと持続力を与える役割を果たします。
現代の香水においても、この保香効果を期待してムスク系の香料(主に合成ムスク)が広く使用されています。特にベースノートとして配合されることが多く、香水全体の構造を支える重要な役割を担っています。
また、ムスクの香りは季節によっても印象が変わります。一般的には濃厚で重厚な香りが多いため、秋や冬の使用に適しているとされています。寒い季節にムスクの温かみのある香りが肌に馴染むことで、より魅力的な香りの表現が可能になるのです。
古代から薬用と香料として珍重されてきた歴史がある
ムスクの歴史は非常に古く、有史以前から人類によって利用されていたと考えられています。インドや中国では、薫香や香油、そして薬として使用されていた記録が残っており、その価値の高さは古代文明における金の2倍以上という驚異的な価格で取引されていたほどです。
中国の伝統医学においては、ムスクは「麝香」として重要な生薬の一つに位置づけられています。興奮作用や強心作用、男性ホルモン様作用といった薬理作用があるとされ、現在でも六神丸、樋屋奇応丸、宇津救命丸などの日本の伝統薬にも使用されています。
📚 ムスクの歴史的価値と用途
時代・地域 | 用途 | 価値 |
---|---|---|
古代インド・中国 | 薫香、香油、薬用 | 金の2倍以上の価格 |
アラビア | 香料、薬用 | クルアーンに記載 |
古代ヨーロッパ | 香水、薬用 | 12世紀に伝来 |
現代日本 | 伝統薬 | 条約前ストック使用 |
アラビア地域でも古くからムスクが使用されており、クルアーンにすでに記載があることから、イスラム教成立以前に伝来していたと考えられています。ヨーロッパには6世紀には情報が伝わっていましたが、実物が伝来したのは12世紀になってからのことでした。
特に興味深いエピソードとして、古代エジプトの女王クレオパトラが挙げられます。彼女は香り使いの達人として知られ、ムスクを浴びるほど使用していたと伝えられています。そして、このムスクの魅力によってローマ時代の権力者アントニウスを魅惑したという逸話が残っています。
日本においても、仏教伝来とともに中国から香料が入ってきた際、ムスクも同時に伝来したと考えられています。正倉院には当時の香料関連の道具が現在でも保存されており、日本の香文化の発展にもムスクが重要な役割を果たしていたことが窺えます。
現代においても、一部の伝統薬ではムスクの薬効が重視されており、条約発効前のストックを使用して製品が作られています。ただし、入手困難な状況を受けて代替成分への切り替えも進んでいるのが実情です。
ジャコウジカは現在絶滅危惧種として保護されている
ムスクの高い価値と需要により、ジャコウジカは長い間激しい乱獲にさらされてきました。年間1万から5万頭ものジャコウジカが香料採取のために殺されていたという記録もあり、この状況により個体数は急激に減少していきました。
ジャコウジカが直面している脅威は、香料採取だけではありません。生息地である山岳地帯の開発や気候変動による環境変化、他の要因による生息地の減少なども個体数減少に拍車をかけています。
🚨 ジャコウジカが直面する脅威
脅威の種類 | 具体的な内容 | 影響度 |
---|---|---|
乱獲 | 香料採取目的の狩猟 | 極大 |
生息地破壊 | 山岳地帯の開発 | 大 |
気候変動 | 生息環境の変化 | 中 |
密猟 | 違法な捕獲 | 大 |
このような状況を受けて、1979年にジャコウジカは絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)により保護対象となりました。これにより、ジャコウジカおよびその生産物(ムスクを含む)の商業目的での国際取引は原則として禁止されています。
現在、中国ではジャコウジカの飼育と、動物を殺すことなく継続的にムスクを採取する方法が研究・実践されています。麻酔で眠らせて香嚢から分泌物を採取する方法などが開発されていますが、商業的な需要を満たすには遠く及ばないのが現状です。
一部の野生動物保護団体では、ジャコウジカの生息地保護や個体数回復のためのプロジェクトも実施されています。しかし、山岳地帯という特殊な環境での保護活動は困難を極め、個体数の大幅な回復には長い時間が必要と予想されています。
ワシントン条約により天然ムスクの取引は禁止されている
1979年のワシントン条約発効により、天然ムスクの商業目的での国際取引は原則として禁止されました。これは香水業界にとって極めて大きな転換点となり、天然ムスクに代わる代替品の開発が急務となりました。
条約により規制されているのは国際取引であり、理論的には条約発効前に合法的に入手されたストックの使用は可能です。実際に、日本の一部の伝統薬メーカーでは条約発効前のストックを使用して製品を製造しているケースもあります。
⚖️ ワシントン条約による規制の詳細
規制内容 | 詳細 | 例外事項 |
---|---|---|
商業取引禁止 | 国際間でのムスク取引を禁止 | 学術研究目的は許可制 |
ストック使用 | 条約前の合法ストックは使用可能 | 証明書類が必要 |
代替品推奨 | 合成ムスクの使用を推奨 | 動物愛護の観点から |
しかし、これらのストックも年々枯渇しており、新たな天然ムスクの入手は実質的に不可能な状況です。例えば、かつて天然ムスクを使用していた「救心」は、2015年に麝香の使用を廃止し、鹿茸や沈香などの他の成分で代替する処方変更を行っています。
香水業界においては、条約発効以降は合成ムスクへの完全な移行が進みました。現在、一般に流通している香水で天然ムスクを使用しているものは、王族やアラブの富豪が特別注文で製造するような極めて限定的なケースを除いて、ほぼ存在しないと考えられています。
この規制により、現代の「ムスク香水」は実質的にすべて合成ムスクを使用しているというのが実情です。ただし、技術の進歩により合成ムスクの品質も大幅に向上しており、天然ムスクに近い香りの再現が可能になっています。
現代のジャコウジカ香水事情と代替品
- 現在のムスク香水は100%合成香料で作られている
- 合成ムスクには多様な種類と特徴がある
- ホワイトムスクは合成ムスクの代表格である
- 本物のムスクを体験できる場所は極めて限られている
- 合成ムスクにも安全性の課題が存在する
- 日本の香専門店では貴重な天然ムスクを体験できる
- まとめ:ジャコウジカ香水の真実と現代への影響
現在のムスク香水は100%合成香料で作られている
現代の香水業界において流通している「ムスク香水」は、ほぼすべてが合成香料で作られているというのが実情です。ワシントン条約による規制、動物愛護の観点、そして安定供給の必要性などから、香水メーカーは天然ムスクから合成ムスクへの完全移行を果たしています。
合成ムスクの研究は19世紀末から本格的に始まり、現在では合成香料全体の2%以上、取引金額ベースでは7%にもなるほど広く使用されています。これは香水だけでなく、ルームフレグランス、洗剤、石鹸、入浴剤など、私たちの生活に密着した様々な製品に使用されていることを示しています。
💡 現代の合成ムスク使用状況
使用分野 | 製品例 | 使用目的 |
---|---|---|
香水 | オードパルファム、オードトワレ | メイン香料、保香剤 |
化粧品 | ボディクリーム、ハンドクリーム | 香りづけ、保香 |
日用品 | 洗剤、柔軟剤、石鹸 | 清潔感の演出 |
住環境 | ルームフレグランス、芳香剤 | 空間の香りづけ |
合成ムスクの技術は年々進歩しており、分子構造的には天然ムスクとほぼ同じレベルまで再現できるようになっています。しかし、天然ムスクが持つ複雑で微妙なニュアンスを完全に再現することは、現在の技術をもってしても困難とされています。
それでも、一般消費者が日常的に接している「ムスクの香り」は、すべて合成ムスクによるものです。私たちが「ムスクの香り」として認識している香りは、実際には合成ムスクの香りということになります。
興味深いことに、現在では合成ムスクの方が天然ムスクよりも透明感があり、使いやすいという評価もあります。天然ムスクは確かに独特の深みがありますが、現代の香水文化に適応した形で合成ムスクが発展していると言えるでしょう。
合成ムスクには多様な種類と特徴がある
合成ムスクは、その化学構造や香りの特徴によっていくつかのカテゴリーに分類されます。天然ムスクの再現を目指すものから、全く新しい香りを創造するものまで、様々なタイプが開発されています。
初期の合成ムスクである「ニトロムスク」は1900年代初期に開発されましたが、後に発がん性が疑われ使用が停止されました。その後、安全性を重視した「ポリサイクリックムスク」や「マクロサイクリックムスク」などが開発され、現在の主流となっています。
🧪 合成ムスクの主要カテゴリー
種類 | 特徴 | 安全性 | 使用状況 |
---|---|---|---|
ニトロムスク | 初期の合成ムスク | 発がん性の疑い | 使用停止 |
ポリサイクリック | 環境ホルモン様作用 | 一部で懸念 | 限定使用 |
マクロサイクリック | 天然に近い構造 | 比較的安全 | 主流 |
リニア | 単純な構造 | 安全 | 一般的 |
代表的な合成ムスクとして「Galaxolide(ガラクソライド)」があります。これは非常に有名な合成ムスクで、やわらかく優しく甘い雰囲気を出すことができる優秀な香料として評価されています。多くの香水や日用品に使用されており、私たちが日常的に接しているムスクの香りの多くがこのタイプです。
また、「Ambroxan(アンブロクサン)」などの新しいタイプの合成ムスクも開発されており、これらは天然のアンバーグリス(竜涎香)の香りも再現できる複合的な特性を持っています。
合成ムスクの大きな利点は、品質の安定性と供給の安定性です。天然ムスクは個体差があり、品質にばらつきがありましたが、合成ムスクは常に一定の品質を保つことができます。また、大量生産が可能なため、コストパフォーマンスにも優れているのが特徴です。
ホワイトムスクは合成ムスクの代表格である
「ホワイトムスク」という用語は、天然ムスクと区別するために生まれた合成ムスクの総称です。これは公式の化学名称ではなく、一般的に使われるようになった通称ですが、現在では非常にポピュラーな呼び方となっています。
ホワイトムスクの特徴は、天然ムスクの重厚で動物的な香りとは対照的に、柔らかく清潔感のあるパウダリーな香りを持つことです。多くの人が「石鹸のような香り」「お風呂上がりのような香り」と表現するのは、まさにこのホワイトムスクの特性によるものです。
🌸 ホワイトムスクの特徴比較
比較項目 | 天然ムスク | ホワイトムスク |
---|---|---|
香りの印象 | 動物的、重厚 | 清潔、パウダリー |
使いやすさ | 上級者向け | 初心者向け |
季節適性 | 秋冬向け | オールシーズン |
男女適性 | ユニセックス | 女性寄り |
価格 | 極めて高価 | 比較的安価 |
ホワイトムスクは特に女性からの人気が高く、その理由として香りの親しみやすさと万人受けする特性が挙げられます。オフィスシーンでも使いやすく、周囲に不快感を与えにくいため、香水初心者にも推奨されることが多い香りです。
代表的なホワイトムスク製品として、「ザ・ボディショップのホワイトムスク」や「SHIROのホワイトリリー」などがあります。これらの製品は、ホワイトムスクの特性を活かした優しく上品な香りで多くの愛用者を獲得しています。
一方で、ホワイトムスク特有のパウダリーな香調が苦手と感じる人もいます。「化粧品のような人工的な香り」「粉っぽくて重い」といった意見もあり、香りの好みは個人差が大きいことを示しています。
本物のムスクを体験できる場所は極めて限られている
現在、一般の人が本物の天然ムスクを体験できる機会は世界的に見ても極めて限られています。ワシントン条約による規制と天然ムスクの希少性により、ほとんどの人は生涯にわたって本物のムスクに触れることがない状況です。
しかし、日本には数百年にわたる香料の備蓄を持つお香専門店が存在し、これらの店舗では一般の人でも本物のムスクを体験できる貴重な機会が提供されています。
🏪 本物のムスクを体験できる可能性のある場所
場所の種類 | 具体例 | 体験方法 | アクセス難易度 |
---|---|---|---|
京都の香専門店 | 松栄堂、山田松香木店 | お香作り体験 | 比較的容易 |
高級香水店 | 一部の老舗店 | 特別展示 | 困難 |
博物館・資料館 | 資生堂アートハウス | 展示見学 | 中程度 |
研究機関 | 香料研究所 | 学術目的 | 極めて困難 |
特に注目すべきは京都の松栄堂です。ここには世界的に有名な香水ブランドであるシャネルなどの重鎮たちが通っているとされ、彼らでさえ入手できない稀少香料と伝統的な加工技術を保有しています。
山田松香木店では、一般観光客向けの「お香作り体験セミナー」が比較的頻繁に開催されており、その中でごく微量ではありますが本物のムスクに触れる機会があります。体験者の証言によると、「現代の合成ムスクよりも透明感がある」「想像していたよりも動物的な香りが強い」といった感想が聞かれます。
過去には資生堂アートハウス(掛川)に本物のムスクのサンプルが展示されていたという情報もありますが、現在の展示状況は変更されている可能性があります。
これらの貴重な体験機会は、香水や香料に興味を持つ人にとって一生に一度の体験となる可能性が高く、香りの歴史と文化を理解する上で非常に価値の高いものです。
合成ムスクにも安全性の課題が存在する
合成ムスクは天然ムスクの代替品として開発されましたが、安全性の面でいくつかの課題が指摘されています。これは、多くの合成ムスクが自然界に存在しなかった物質(ニューケミカル)であるためです。
初期の合成ムスクである「ムスクケトン」や「ムスクアンブレット」などのニトロムスク類は、後に発がん性の疑いが持たれ、現在では使用が停止されています。また、1970年代から使用されていた一部のポリサイクリックムスクには、環境ホルモン様の作用が疑われているものもあります。
⚠️ 合成ムスクの安全性に関する課題
問題の種類 | 対象物質 | 懸念事項 | 現在の状況 |
---|---|---|---|
発がん性 | ニトロムスク類 | がんのリスク | 使用停止 |
環境ホルモン | 一部ポリサイクリック | 内分泌かく乱 | 使用制限 |
蓄積性 | 脂溶性ムスク | 体内蓄積 | 監視継続 |
アレルギー | 一部合成ムスク | 皮膚感作 | 表示義務 |
現在主流となっているマクロサイクリックムスクは比較的安全性が高いとされていますが、数十年から数百年という長期間使用した際の影響については、まだ十分なデータが蓄積されていません。
EU(欧州連合)では特に厳しい規制が設けられており、化粧品や香水に使用できる合成ムスクの種類と濃度に制限があります。日本でも厚生労働省による安全性評価が継続的に行われており、問題が指摘された成分については使用制限や禁止措置が取られています。
消費者としては、信頼できるメーカーの製品を選ぶこと、過度の使用を避けること、肌に異常を感じた場合は使用を中止することなどの注意が必要です。また、妊娠中や授乳中の女性、小さな子供がいる家庭では、特に注意深く製品を選ぶことが推奨されています。
日本の香専門店では貴重な天然ムスクを体験できる
日本の伝統的な香専門店は、世界的に見ても稀少な天然香料の保管施設としての役割を果たしています。特に京都を中心とした老舗の香専門店では、沈香や伽羅といった香木とともに、貴重な天然ムスクも保管されています。
これらの店舗が天然香料を保有できる理由は、数百年にわたる事業継続と適切な保管技術にあります。特に湿度と温度を一定に保つ伝統的な保管方法により、香料の品質を長期間維持することが可能になっています。
🏛️ 日本の主要香専門店の特徴
店舗名 | 所在地 | 創業年 | 特徴 |
---|---|---|---|
松栄堂 | 京都 | 1705年 | 世界的香水メーカーも訪問 |
山田松香木店 | 京都 | 1024年 | 一般向け体験セミナー開催 |
薫玉堂 | 京都 | 1594年 | 宮内庁御用達 |
香十 | 京都 | 1663年 | 伝統的製法保持 |
山田松香木店では、一般の観光客でも参加できる「お香作り体験」が定期的に開催されており、その中で本物のムスクを含む様々な天然香料に触れる機会が提供されています。参加者の証言によると、「現代の合成ムスクとは全く異なる複雑で深い香り」を体験できるとのことです。
松栄堂は特に国際的な評価が高く、シャネルやエルメスなどの世界的な香水ブランドの調香師やバイヤーが定期的に訪問していることで知られています。これは、現代の香水業界でも入手困難な稀少香料と伝統技術を求めてのことです。
これらの体験は単なる観光以上の価値を持っています。香りの歴史と文化を理解し、天然香料と合成香料の違いを実際に体感することで、香水や香料に対する理解が深まります。また、日本の伝統文化の一端に触れる貴重な機会でもあります。
体験を希望する場合は、事前に各店舗に問い合わせることをお勧めします。季節や時期によって開催されるプログラムが異なるため、希望する体験内容について確認することが重要です。
まとめ:ジャコウジカ香水の真実と現代への影響
最後に記事のポイントをまとめます。
- ジャコウジカは香嚢という特殊な器官を持つ小型のシカ科動物である
- 天然ムスクは雄のジャコウジカの香嚢から採取される分泌物で、甘く粉っぽい香りが特徴である
- ムスクは古代から薬用と香料として珍重され、金の2倍以上の価値で取引されていた
- 乱獲により個体数が激減し、1979年にワシントン条約で保護対象となった
- 現在の香水は100%合成ムスクで作られており、天然ムスクの使用は事実上不可能である
- 合成ムスクには多様な種類があり、安全性と品質の向上が続いている
- ホワイトムスクは合成ムスクの代表格で、清潔感のあるパウダリーな香りが特徴である
- 本物のムスクを体験できる場所は世界的に極めて限られている
- 日本の香専門店では一般の人でも天然ムスクを体験できる貴重な機会がある
- 合成ムスクには安全性の課題もあり、適切な使用と製品選択が重要である
- 京都の松栄堂や山田松香木店などでお香作り体験を通じて本物のムスクに触れることができる
- 現代の「ムスクの香り」として認識されているものは実質的にすべて合成香料である
- 香料技術の進歩により、天然ムスクに近い香りの再現が可能になっている
- ムスクには他の香りを引き立て持続させる保香効果という重要な機能がある
- 女性は男性よりもムスクの香りを強く感じる傾向があることが科学的に証明されている
調査にあたり一部参考にさせて頂いたサイト
- http://japanfragrance.org/forum/2014/02/04/%E9%BA%9D%E9%A6%99%EF%BC%88%E3%81%98%E3%82%83%E3%81%93%E3%81%86%EF%BC%89%EF%BC%9C%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%82%AF%EF%BC%9E/
- https://noseshop.jp/products/158583909
- https://www.artlab.co.jp/blog/etc/fragrant_etc_03
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%9D%E9%A6%99
- https://www.celes-perfume.com/what_is_musc/
- https://gendai.media/articles/-/76436?page=3
- https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12134866367
- https://www.fragrance.co.jp/editions/?eid=1484
- https://coloria.jp/magazine/articles/rxJUw
- https://note.com/scently/n/ne80f839617e4